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GOOD LUCK !!

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Act.11

「なおえ……」
高耶が、唇を微かに動かした。
何を言ったらいいのかわからない。まるで頭が働いていない様子だ。
どうしようもなくて、ただ名前を紡いだのだろう。

「愛しています」
他に言うことはない。補足すべき事柄など、何もなかった。
疲れたように瞼を下ろして、静かに直江は呟いた。

「だっ……て、おまえ……」
相手はしばらく音もなく唇だけを微かに動かしていたが、やがて、初めて混乱を見せた。
ようやく戻ってきた感情を、どこから手をつけて吐き出せばよいのか迷うような声音だったが、この言葉は拒絶でも嫌悪でもなく、純粋な戸惑いを含んでいて、直江は再び目を開けた。

「だって、おまえ、……父さん……なんだ、ろ……?」
高耶の唇が紡いだのは、そんな言葉だった。
「オレの……父さんなんだろ……?」

「え、っ !? 」
驚愕するのは直江の方だった。

ありえない。自分と彼との年齢差は11だ。いや、生物学的には不可能ではないだろうが、自分には絶対に違うと言い切れる。その当時に彼の母親と関係を持ったことなどないのだ。だから、ありえない。
―――けれど、高耶は本気でそう思っていたようだった。

「だって、母さんはいつも、お前のことを話すとき、父さんの話をするときと同じ顔してた……
本当に優しくて、甘い顔……母親じゃなくって、女の顔だった、ぜ……」
顔の筋肉をどう動かしたらいいのかすら見当がつかない様子で、高耶はぎくしゃくと切れ切れに言葉を紡いでいる。
これまでに一度もそのようなことを匂わせたことがなかったのに、彼は初めてここで、その心に抱いていた言葉を直江に聞かせた。

「そんな、ばかな……違いますよ、俺はあなたの父親じゃない」
男にとっては寝耳に水もいいところである。
まさか高耶がそんなことを思っていたなどとは夢にも考えなかった。
実の父親だと思われていたなんて。

直江は、違う、ときっぱり首を振ったが、相手はふるふると頭を震わせて拒絶した。
その唇からこぼれた言葉に、直江は息をのむ。

「……ぅそだ……だって、お前、母さんと……っ」

心臓に杭を打ち込まれた気分だった。

「あなた、知って……?」
「オレだって、そのくらいわかるよ……仕事が済んだ後はいつもキスしてただろ。二人で出かけてたのだって、オレを気にしてたんだろ、知ってるぜ」

高耶の目に、非難はなかった。寂しいような光がそっと瞬いたのみで。

「……気づいていたんですね。
ええ、確かにそれは事実です。私はあの人と関係を持っていた。あの頃……相棒をやっていたころは。
……けれど、あなたの父親は俺じゃない。あなたが生まれる前には、一度だってそんな風に触れ合ったことはないんです!確かにあの人とはあの頃からの馴染みだけれど、恋愛なんて、してない……」

首を振って静かに言い終えると、息を詰めて聞いていた相手が大きく息を吐いた。

「……そっか。
直江、父さんじゃなかったんだな……そっか。残念だな……」

父親だと思って慕っていた相手が本当はただの他人だった。
だから、寂しくて、残念だ……。

高耶のため息は、そんな思いが溢れたもので。


―――それが、直江の神経回路をショートさせた。最後の一瞬を越えさせ、狂わせた―――


Act.12

(あまりの暗さに自主規制……隠しました。潜伏……


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