[ contents ] index - menu - library - BBS - diary - profile - link
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16...
怪盗、だなんて、今の人間が聞いたら鼻で笑うだろうか。
そんなことはないよ、と笑って続きを促してくれる、あの子どもの頃の好奇心を忘れないあなたに、
このお話を捧げます。
怪盗ルパン、シャーロックホームズ、そして少年探偵団が大好きだった、一人の元子どもより。
Act.1
『予告
上杉グループ蔵、数々の逸話を秘めた宝刀・毘沙門刀を
近いうちに戴きにまいります
夜叉 』
「―――お話はわかっていただけたでしょうか」
足音を吸ってしまうほどに毛足の長い絨毯の上を、その男は檻の中の熊の如きいらついた足取りで行ったり来たりして踏みしだいていた。
秘書の男が客人にそう問うと、相手は肯いた。
「承りました。
『夜叉』の予告状は確かに本物だと思われます。これまでのものと同一です」
手元の紙に目を落としたままそう答えた客人は、黒髪を綺麗に櫛で梳いた、理知的な顔立ちの男である。
彼は片手で眼鏡をなおしながら、ようやく視線を上げて口を開いた。
「私をお呼びになったのは、『夜叉』の手から件の毘沙門刀を守るためですね。色部さん」
名を呼ばれ、行ったり来たりを繰り返していた男はようやく足を止めて、客人に向きなおった。
「その通りです。数々の難事件を解決してこられた開崎氏、あなたにぜひお願いしたい。
我が上杉グループの創始・上杉謙信の遺した守り刀ともいうべきこの毘沙門刀を、何としても守ってください」
じっとまっすぐに瞳の奥を探り合い、両者はしばらく微動だにしないで佇んだ。
信用のおける、取引か否か―――
やがて、相手の奥の奥まで見通そうと鋭い眼差しで対峙していた開崎が、すっと右手を差し出した。
「ぜひ、やらせていただきましょう」
『夜叉』vs『私立探偵開崎誠』の火蓋は、こうして切られたのだった。
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16...
[ contents ] index - menu - library - BBS - diary - profile - link