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WHEREVER !

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妙なことになった。
謎のストーカーとオレは、駅前の一角にある喫茶店に入って、向き合っていた。

「それで?親父ってどっちの方」
注文を取りに来たウェイトレスが下がるのを待って、オレは聞きたかったことを単刀直入に切り出した。回りくどいのは趣味じゃない。
「両方です」
男はそう答えると、ゆっくりとサングラスを外した。

やはり、その顔は俳優並みに整っていて、とても一介の刑事には見えない。
そう、男は刑事なのだという。さっきの路地でそのことを告げて手帳を見せられたのだ。
警察には昔かなり世話になっているので、その手帳が一目でわかるような偽物ではないということはすぐにわかった。
それで、どのみち相手が何者であれ、その意図を尋ねるつもりではいたから、そのままついてきたのだ。相手の選んだこの場所も、決して人目のない場所ではない。
だからといって相手が本当に害意を持っていない人間であるという証拠にはならないが、少なくとも、今すぐに自分をどうこうするつもりはないと思っていいようだった。
それに、この顔は間違ってもチンピラではない。もしその筋の人間だとしたら、きっと上層部だ。オレをどうこうする必要もない。

「いい男だな、あんた」
素直に口に出すと、相手が驚いたように目を見張る。
「……ありがとうございます。あなたは面白い人ですね」
一瞬の間をおいて返された言葉は笑いを含んでいて、なんだか子ども扱いされている気がした。
「面白いとか言うな。むかつくから。
―――で、両方って何だよ?」
あっさりと先ほどの話に戻すと、相手は笑いを収めてこちらを見つめてきた。

「あなたの実父が出所しました」

「……そうか」
まさかという気持ちと、やっぱりなという思いが胸に満ちる。
相手は目を伏せたこちらの気持ちをわかっているのか、そのまま淡々と話を続けた。
「そして、現在その居所が掴めていません。
その一方で、あなたの現在のお父さんにマークがついているんです」

驚いた。義父さんに刑事が目をつけている?

「どういう意味だ?親父さん、何かしたのか」
顔を上げて、食って掛かるように問いかけると、相手は首を振った。
「いえ、警察側のマークではなくて、その筋の人間が張り付いているんですよ。一目でわかるような下手な尾行です。
あれは相手の行動を監視する目的ではなくて、精神に揺さぶりを掛けるための行動です」
「なんで」
「あなたのお父さんの会社が関わった計画に、その組織が絡んでいるようです。それで、半ば脅しをかけているような状況なんですよ。奴ら、もしくはその後ろにある組織にとって有利な方向に事態が進むよう」

―――ありそうな話だ。
義父さんの会社はまだ小さいながら随分勢いをつけているらしい。そういう発展途中の小企業が、どこかから芽を摘み取ろうと画策されたって、不思議でもなんでもない。

「……そうか。それで、くそ親父との関係は?」

ひとまず義父さんに関係があって警察が動いているということはわかった。
しかし、考えたくもない、あの男が、この事態とどうかかわりを持っているというのだろう。
それとも、別口なのだろうか?
出所そうそう監視の目をくらますとは、一体何を企んでいるのだろう、あの男は。

苦い気分で問うと、返ったのは最も予想したくない返事だった。

相手はテーブルの上に両手を組んで、まっすぐにこちらを見つめると、少しだけ気の毒そうな眼差しになって、こう答えたのだ。


「―――彼がその組織の人間と接触したという情報があるんです」


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