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雑踏には、それ独特の雰囲気がある。
平たく言うと、みんなてんでばらばら。
一人一人目的が違う。目指す方向も違う。
そもそも、目的すらない人間もたくさん紛れ込んでいる。
そんな、ごちゃまぜの空間が広がっている。
互いに干渉することは一切ない。
それが、この場所の唯一の秩序だ。
だから……それが乱されると、すぐにわかる。
―――ああ、まただ。
最近、妙な気配がいつも後ろにある。
みんな目指す方向が違うはずなのに、自分と同じ方向にずっと歩いてくる人間なんかがいたら、
そんなものはすぐにわかる。
ときどき視界の隅で確認すると、それは長身の男だった。
日本人離れした体格に見える。
そして―――、動きが普通の人間じゃない。
と思う。
「たまんねぇよな……」
高耶は呟いた。
―――オレ、単なる高校生だぜ?中学時代は荒れてたけど、今はきれいなもんだと思うんだがな。
サツだかマル暴だか知んねーけど、何でこんなことされなきゃなんねーんだよ……
うーんと背伸びをして、首をコキコキ鳴らしながら本屋へ入っていくその後姿を、50mばかり後ろから、さりげなさを装ったその男が見守っていた。
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