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WHEREVER !

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やっぱり相当でかい男だ、と視界の隅に入った敵さんに内心で感心する。
自分もどちらかというと背のある方だが、奴は190近いんじゃないだろうか。
よくよく見れば、体格も理想的だし、顔立ちもサングラスを外せばいいセンいってそうだ、と首を傾げる。
城に入る門に凭れて腕を組んでいる姿などは、むしろ人目を引く存在のように思える。到底、尾行向きの男だとは思えないのだが、解せない。
一体どういうつもりで自分を追い掛け回すのだろう。それも、ただ後を尾けて歩くだけ。
さっぱり意図が読めない。
恨みを買った覚えは無いが、そもそも怨恨絡みだとすれば何も仕掛けてこないのはおかしい。
かと言って、まさか単なるストーカーのはずもない。自分は一男子高校生なのだから。

「ふ〜っ」
堀端にしゃがみこんでいた高耶は、ゆっくりと立ち上がって伸びをした。
傍目から見れば、全くの無警戒な仕草である。

すらりとした肢体に風をはらませて、彼は何気なく例の男の横を通って城を出た。

すれ違いざまに薫ったのは、香水の匂いだったのだろうか。
鼻をくすぐられた甘い香りが、意外にもその男には似合っていた。
やはり顔立ちもいい。額のあたりといい、鼻梁の通り具合といい、捻じ曲がったところがなかった。

「まともすぎて、まともに見えねーんだよなぁ……」
小さく呟いて、高耶は首を振った。

本当にまともな人間があんな行動を取るはずもない。
しかし、あまり嫌なにおいがしないのも事実だ。
そのスジの人間という感じでもなかった。
もしそうだとしても、下っ端ではあるまい。
―――けれど、取っている行動は明らかに下っ端の仕事。
やはり、その可能性は低い。

では一体何者なのだというのだろう。
予定通り、話つけるしかないな、と決めて、高耶は商店街を歩いていった。


予め決めておいた路地へすいっと入り込んで、そこからさらに細い道に身を潜める。
追ってきた相手がこの路地へ入ったところを捕まえようというわけだ。

果たして、相手は追ってきた。
しかし慌てた様子もなく、悠々と入ってきて、男はあろうことか高耶の隠れている道の手前で足を止めたのである。
「随分大胆なことをするんですねぇ」
含み笑いにも似た声が発せられ、高耶は相手に自分の行動が悟られていたことに気がついた。
が、別段、怒りも湧いてこない。
こちらにすぐに気づかれるような尾行をしていたから下手くそかと思っていたが、やはり専門家ではあったらしい。
ひょいと肩をすくめて、高耶は陰から姿を現した。

互いの姿が目に入ったところで、男が口を開いた。
「こんにちは」
何ともテンポの外れた挨拶だったが、男の方はからかっているつもりでもないようだ。
「挨拶なんかどうでもいい」
がくっと首を傾げて、高耶は単刀直入に問いかけた。

「……で、あんた一体何なんだよ?人のこと尾け回して。新手のストーカー?」

相手の瞳が面白そうに瞬いて、ゆっくりと首が横に振られた。

「場所を変えましょう。あなたのお父さん絡みでお話があります」
「親父だと?」

高耶の瞳には思いもよらない言葉に対する純粋な驚きの色が浮かんでいた。


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