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「珍しく早いね、高耶」
誰よりも早く教室に入っていた高耶に、朝練のために登校してきて、荷物を置きに入ってきた譲が驚いた顔をした。
「こんな時間に、どうしたんだよ?……その傷、また何かあったの !? 」
傍まで歩いてきて、彼は高耶の頬の真新しい切り傷に目ざとく気づいて声を上げた。
「……夜中に、ふらふらしてたら昔の知り合いに売られたんだよ。久々にやったし相手が三人いたからちょっと分が悪かったかな」
肩をすくめると、相手はため息をついたが、ケンカしたことについてはもう何も言わず、
「傷、それだけ?他は大丈夫なのか?」
「まぁ、な」
本当は幾つか痣になっているのだが、大したことではない。
「……ならいいけど。高耶、あんまり無茶しないでよ」
言外のところを察して、譲は再びため息をついた。
「これ以上生指に突かれたら美弥ちゃんが心配するぞ」
頭を小突くようにされて、痛っ、と呻く。
「高耶 !? 」
驚いて手を離し、顔を覗きこんできた親友に、高耶はにやりと笑った。
「―――驚いたか?ジョークだよ、ジョーク」
かつがれたのだと悟って、相手の茶色い眼が不気味に笑い出す。
「たかやぁ?」
「な、何だよ」
ずいずいっと近寄られ、満面の笑みで圧倒されて、思わずじりじりと後ろへ下がる。
「心配してる友達で遊ぶとは、いい根性してるよねぇ」
ぐいっ、と鼻をつままれた。
手加減もなしに。
「痛ってぇ!」
「当たり前だろ、オレ握力けっこうあるんだぜ〜」
「譲っ!!」
そんな風にじゃれていると、ふと譲が首を傾げた。
「ねぇ、高耶って香水なんかつけないよね?」
「はあ?当たり前だろ。女じゃあるまいし、気色悪い」
突然の言葉に驚いたものの、高耶は即座に首を振った。
相手は不思議そうな顔をして、
「なんか、甘いような匂いがするからさ、お前の方から」
変だな、と眉を寄せている。
「甘い……?あ、」
瞳をくるりと動かして、ふと高耶は小さな声をもらした。
それを耳聡く聞きつけて、譲が尋ねる。
「心当たりでもあるの?」
「いや、それ……直江かも」
意外な答えに、彼の目が丸くなる。
「直江先生?何で !? 」
「……昨日のケンカ、あの野郎が止めに入ってきたんだよ。オレがこの傷をこさえた直後にな」
素っ頓狂な声を上げる親友の心中を察してか否か、高耶はすぐにその種を明かした。
「へぇ……」
「この間の公園だったからさ。あいつの住んでるマンションの目の前なんだよ」
「そうかぁ。それにしても、ほんとあの先生、おかしいよねぇ」
親友は肯いて、首を傾げた。
どうしてわざわざ高耶にだけ構うのだろう。
「ヘンな奴だよ。相手の奴ら、ナイフなんか持ち出しやがったのに、あの男が手首捻り上げたらガキみたいに喚いておとなしくなった。相当慣れてやがるぜ、直江」
高耶は高耶で困った顔をしている。
二人は、微妙にずれた観点から、古典の直江をヘンと評価していた。
「で、何、ナイフなんか出てきたの?」
ふと、顔を上げて譲が問うた。
「ああ。ちょっとやばかったかもな。下手したら刺されてた」
「高耶」
真剣な眼差しになった親友に、高耶は少したじろぐ。
「何だよ」
ひたと視線を合わせると、譲はにっこり笑って続けた。
「とりあえず、お礼言っときなよ。直江先生に。美弥ちゃん悲しませずにすんだのは先生のお陰なんだろ」
「……そうだな」
視線を流して、高耶が呟くように肯いた。
「噂をすれば」
窓の下で、件の男が長身を運んでいる。早朝からの出勤、それほど仕事に熱を入れているとも思えない男なのに、実はこれが習慣なのである。いつも同じ時間に彼を見かける譲は知っていた。
「行ってきなよ」
親友が背を押すのに任せて、高耶はゆっくりと教室から出て行った……
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