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ばとる・ろわいやる?

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我らが隊長の宣言に、周囲はしばし、ぽかんと間をおいた。

言っている意味がわからないのだが、それをこの状態(注:景虎女王様オーラ発生注意報発令中)の仰木さんにお伺いたてまつるほどの勇気の持ち主は、なかなかいない。

忠犬は忠犬らしく、知ったような顔をして従う姿勢を崩さない。(知ったか大王の二つ名を冠するとの専らの噂
夜叉衆の二人はひさびさに見るやる気まんまんの女王様モードに引いている。400年の付き合いで身をもって知った仲だ。
ぷりちー卯太郎ちゃんは何とはなしにこの場の雰囲気を察して黙り込んでしまっているし、リーダーは何故だか周りの人間の濃さに圧倒されて影が薄い(ゴメンナサイ)。
潮くんは純粋に意味がわかっていないらしく、首を傾げている。O型もここまでくれば立派であろう。
そして問題の人・中川先生は意味がわかっていて面白がっているご様子。さすがである。
残る二人はといえば、お兄さまは相変わらず柱の影がお好きのようだし、ねんねこ譲くんは時折怪しげな寝言を繰り返すばかり。

―――そんなわけで。

「……え〜っと?」
最初の毒見役は、言わずと知れたイイヒト千秋であった。

「何だ、千秋?」
ぎろっと視線を向けられて彼は内心たじたじとなるが、ここは一つ、男を見せてやらねばならない。
いつもの飄々とした仮面を気合を入れて被り直し、彼は長年連れ添ってきた大将にお伺いをたてた。
「ずばり聞こう。『多いもんでしょ』って何なんだ?」
「何だと?」
瞳がすっかり赤くなっている気がするのだが、錯覚だろうか。
内心呟きながら、
「だからさぁ、『多いもんでしょ』って何のことなんだよ?大将には意味がわかってて言ってるんだろうが、俺たちにゃ馴染みのない言葉なんでな」

標準語圏の人間には通じない言葉だったようである。
高耶は少し自らのホームタウンの田舎性についての認識を新たにしたが、一つため息をついて答えた。

「『多いもんでしょ』はじゃんけんの一種だ。出した手が多い方が勝ち。
例えば、五人で手を出して三人がチョキ、残りがグーだったりしたら、グーの人間は二人とも負ける。
『多いもん勝ち』とかいう呼び方もあるな」

「へ〜、なるほど。似たような遊びがあった気がするなぁ、たしか」
「さすがは隊長、物知りじゃ」
赤鯨衆のムードメーカー二人が平和にふむふむと肯く中で、その変則的なじゃんけんを選んだ隊長の意図を察した大人たちは少し微妙な顔になった。

「ま、そういうわけで、人数の多いときに手っとり早く勝負をつけるためにはこれが一番。
さぁいくぜ!」

いよいよ、ノリノリの隊長の掛け声がかかる。

「お〜い・もんで・しょ!」

ええい、ままよ!(古い言葉遣いだな……
とばかりに、大人と子どもと精神的子どもと変人と霊体と兄バカとねんねこは、それぞれの利き手を突き出した。


……突き出された9本の手は、
パーが6本、チョキが3本。

―――三つの体がぱたっと倒れた。


♪〜♪〜♪〜
 死亡者:
 我らが先生・中川さん〜
 夜叉衆・門脇綾子さん〜
 みんなのマスコット・卯太郎ちゃん〜
 残り、7人〜
 ♪〜♪〜♪〜


……チーン。


「……晴家?何かシアワセそうな顔してんなぁ……きっと酒かっくらう夢でも見てるんだろうな」
「信じられん……中川があっさり死ぬなんて……いや、何か企んでいるに違いない……ぶつぶつ」
「卯太郎……コタと一緒に寝かせてやるからな」

悼みの言葉はこのへんで。

「何か、思ったよりも減らなかったな」
ふと首を傾げて、隊長が一言。
「たしかに、そうですね」
「う〜ん」

何となく沈黙が落ちたそこへ。

「……『少ないもんでしょ』の方が早く人数を減らせたと思うんじゃがな」

答えるというか、意見するというか、絶妙のタイミングで入った合いの手は、非常に貴重なリーダーの言葉だった。
さすが、ここぞというところでのポイントは押さえている。

「あ、そうか……」
「少ないものが勝つってことは、負ける人数が多いってことだよな」
「大丈夫、私にとってはあなたの仰ることが最上ですから」
「三郎、不覚を取ったな」
「気にすんなって。仰木ィ」

それぞれの言葉は、既に隊長には届いていない。
彼は新たなる疑問に向かって、再び首を傾げていた。
「う〜ん、それにしても気になるのが、譲だな……。あいつ、寝てるくせに何で負けにならなかったんだろ」

すたすたとねんねこ譲くんの傍らへ歩み寄った彼は、
「あまり近寄ってはいけません。危険です」
と自らのことを棚に上げて忠告する後見人の台詞をきれいに無視して、件の眠り姫に近寄ると、あっと声を上げた。

「な、ななな何ですか!どうしました?」
思わず腰が引けてしまった後見人をやはり無視して、高耶は視線を集中させてきた残りの面子に向かって譲の足を指した。
「見てみろ」

「―――こいつも『パー』なんだ」

指の先にあるものは、つま先がハの字を描く形に開いている、譲の足だった。

一気に脱力する者5人。
この、体の底から力が抜けてゆくような脱力感を何度も味わわされるくらいなら、潔く楽になった方がいいかもしれない、と心から思った彼らだった―――。

残り、7人。


02/10/21


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